[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

聖杖を持つ者 ―第7幕― 第301話

 空は青く、時折、白い雲が流れた。山を越え、遠くこの地へとやってきた。
 スートレアスの街に訪れるのは、半年振りのことになる。平原の西側に拠点を持っていた、とある大きな盗賊団を解散させて以来、『アークテラス聖騎士団』に、依頼が来る事もなくなっていた。
 一時期、この盗賊団は、スートレアスの街の人口の半数に相当するほどの隆盛を誇っていたものの、今となっては、アークテラス聖騎士団の名の元、逆らおうなどとする、身の程知らずなど居なくなったという意見が、これまでの定説だった。
「クロート殿。・・・クロート=トゥリューブ殿!!」
 クロートと呼ばれた、その剣を携え、平原を流れる涼しい風に髪をなびかせる青年は、呼びかけたその老人に対して振り返った。
「ダーダネル、何か、分かったのか?」
 その横から現れたのは、すらっと背の高く、強い意志を秘めた瞳を持ち、長く艶やかな髪をした、まだ若い女性だった。
「彼奴らは、西の森の中に潜伏しているようね。・・・こちらを大分警戒していたわ。もう、私達の動きに感付いているらしいわ、クロート。」
「―――おそらく、新手の寄せ集めで出来たような盗賊団でございましょう。・・・しかし、被害を出してしまった以上、見過ごすわけにはいきますまい。」
 クロートは、剣を抜き、前方に振りかざす。
 実際、この地方には、モンスターと呼称される、人間に対し敵意を持つ存在が、極めて少ないため、剣を抜き、戦うことは稀だった。
 仮にモンスターが現れたとしても、街の守衛程度の力で十分も街を守ることができる程度の強さしか持たない。わざわざ、卓越した戦闘技術を持つ、聖騎士団が出る幕ではなかった。
 しかし、それにも関わらず、アークテラス聖騎士団の中において、トップの任務遂行率を誇る、このパーティが指名されることは、それなりに、聖騎士団全体を緊張させた。
 ダーダネルの発言は、今までこの地が安泰であったことと、自らの誇りから来るものであって、実際に、そうであるという確証は、何一つなかった。
「突入の機会を見計らうべきだろうか?・・・ローラ。」
 ローラと呼ばれた、その長身の女性は、クロートに向き返る。
「あなたの指示に従うわ。」
「―――彼奴らの動きが知りたい。・・・一刻も早く、突入しよう。」
 クロート達、聖騎士団のメンバーは、一路、スートレアスの西に広がる森へと足を踏み入れていった。



 森は、奥まで進んだ所で、山脈にぶつかるだけの、特に何もない場所だった。モンスターの巣窟としては、これ以上もない格好の場所だった。
 しかし、それも、今では様子が変わっていた。明らかに、人の踏み荒らした跡が、あちらこちらで見受けられた。何者かが、頻繁にここへと出入りしているようだった。
「人の気配のようね。」
 ローラの忠告に、クロートは、木陰へと身を隠し、様子を見る。数名、見張り役と思われる軽装の盗賊らしき影が、そこにはあった。
「奴らの動きに変化があればここを動く。恐らく、彼奴らは本拠へ向かう・・。」
 ローラとクロートは、その影が動くのをじっと待っていた―――
「吹き荒ぶ嵐の神よ、出でよ!!」
 突然、ダーダネルの詠唱が響き渡った。暴風を召喚し、それをクロート達の背後へと投げかけた。木々をなぎ倒し、その先に、襲い掛からんとする3名の影を見た!!
「いつの間に!?」
「ローラ!!火焔を!!!」
「荒れ狂う焔の化生よ、我等に力を貸したまえ!サラマンドゥラス!!」
 ローラの持つ杖から姿を現した、焔の化生―――サラマンドゥラスが、クロートの剣へと巻きつく!!
「召喚剣術、焔の構え―――サラマンドブレイズ!!」
 クロートは、剣をその3人へめがけて振りかざす。剣に憑依するサラマンドゥラスは、逃げるその影に迫り、逃げ道を断つ!!
「外の人間だ!!全員、応戦しろ!!」
 森の奥から、異変に気付いた盗賊達の声が聞こえるようになった。
「サラマンドゥラスよ、元のあるべき姿へ還れ。」
 3人は、なるべく姿を見せぬように、その声の集団へと走る。



「彼奴らの人数は!?」
「―――数十、いや、百を下らぬやもしれん・・。」
「開けた場所へ出るわね。・・・戦闘の準備を。」
 クロートを先頭に、3人は、盗賊達の本拠へと足を踏み入れる。次の瞬間、敵からの猛攻撃が開始されるが、召喚魔術の前に、その動きを止められる。
「奴らの頭は、この奥か?」
「―――気配は、確かに奥から来るわ。」
「応援を呼ぼう。―――まずは、頭をなんとかしなくてはならぬからな。」
 ダーダネルは、走る2人の後ろで立ち止まり、天を仰ぎ、全知全能の神に対して救いを求めた。やがて、ダーダネルを中心として、円形の魔法陣ができる。
「―――我を、アークテラスの地へ!!この地を司る竜神、出でよ!!」
 そして、円陣の周囲から、この地に古くより棲む、竜神の姿が現れる。ダーダネルをその背に乗せ、一路アークテラスへと向かうのを見届けた。
「ダーダネルが援護を呼ぶまでに、頭を潰す。」
「優美なる空気の化生、我等に力を貸したまえ!シルフェスタル!!」
 周囲から、穏やかに聖なる力に満ちた空気が集まり、2人を包み込んだ・・・。
「彼奴らが何処から現れるかわからないわ。・・・奴の目の前に出るまで、シルフェスタルを守りとして使う・・・。」
「奴の目の前に来た時、空の構え―――」
「―――段取りのように、うまくいくはずは、ないようね。」



「召喚剣術、空の構え―――シルフウィスパルド!!」
 クロートは、瞬時に自らの剣にシルフェスタルを憑依させ、周囲を真空波でなぎ倒す。クロートとローラは、さらに奥へと駆け抜けた。
「―――気配、人のものじゃない!?」
 黒い悪魔の異名を持つモンスター―――、ホーンデビル4体の姿が見えた。
「―――黒い悪魔、最近見なくなっていたと思ってたんだがな・・・。」
「彼奴らの中に、モンスターを操る人間が居るって言うの?」
「傷付ける理由はないが、仕方がない。サラマンドゥラスを憑依させてくれ。」
「時間を稼いで、奴らを引き付けて・・・、その後よ。」
「―――後ろからも来たか!?」
 クロートは剣を抜き、ホーンデビルに攻撃を加える。
「シルフェスタルよ、元のあるべき姿へ還れ。」
 ローラは、シルフェスタルを解放し、後続に振り返った。
「荒れ狂う焔の化生よ、我等に敵を討つ力をあたえたまえ!!サラマンドゥラス、地を迸る刃となれ!!!」
 サラマンドゥラスは、ローラの杖の指し示す方向へと向かい、一瞬にして、後続から迫りくる盗賊達を、焔の海で包み込んだ!!
 クロートは2体目を撃破した直後だった。その背後から別の一体が黒き腕で迫る―――
「―――クロート!?」

2014/12/21 edited (2012/04/08 written) by yukki-ts next to